読みもの
住宅系ライターが、パッシブハウスに泊まってみた

はじめは半信半疑でした
みなさんはじめまして。住宅会社のお仕事を15年ほど手がけているライターのMと申します。
この読み物コンテンツ、いつもはタナカホームの田中社長による記事を掲載しているわけですが、今回は、無理を言って私が寄稿させていただくことにしました。
あれは春とは思えないほど気温が高かった2025年5月初旬のことです。私はこの記事とは別件のご依頼で、タナカホームさんへおじゃますることになりました。その際、「ぜひに」ということで、「小松原モデルハウス」に宿泊させていただくことになったんです。
元々、パッシブハウスについてはいろいろお話を聞いていましたし、調べてもいました。確かに数値で見ると性能は圧倒的ですし、これまで日本国内でパッシブハウスの認定を受けてきた建物と言えば、富裕層の豪邸か別荘、あるいは建築家の実験的な作品がほとんど。一般住宅となるとかなりレアです。興味や期待がなかったかと言えば……かなりありました。
ただ、15年以上も住宅業界のお仕事をしていると、「高気密・高断熱」とか、「冬は暖かく、夏は涼しい」なんていう宣伝文句は死ぬほど見てきましたし、ぶっちゃけ自分でも書いてきたわけですよ。だから、正直、肌で感じるほどの違いなんてないんだろうな……と、半信半疑だったんですよね(タナカホームさん、ごめんなさい)。
ここはどこ?今はいつ?
そんな気持ちを抱えたまま、初日のお仕事が終わり、食事を済ませてから「小松原モデルハウス」へ。まず覚えておいてもらいたいポイントとして、この建物、交通量が多い大通りに面したロードサイドで、周囲はチェーン系のファミレスやコンビニが建ち並ぶ、けっこう賑やかな立地に建っているんですよ。「なんだか落ち着かない場所だな……」なんてことはとても言えませんでしたが、ちょっと思ってはいました。
でも、そんな第一印象はすぐに溶けてなくなったんですよね。社長が帰り、寝室で横になってぼんやりして……気がついたら少しうとうとして、ハッと目を覚ましたとき、私はなぜかこんなことを声に出して言っていました。
「え?ここはどこ?今はいつ?」
なに言ってるのかわからないですよね。私もよくわかりませんでした。この混乱の原因のひとつが「静けさ」にあることに気付くのに1分くらいかかったでしょうか。そうなんです。ぜんぜん音がしないんですよ。山奥にいるような感じなんです。何というか、場所とか時間の感覚が全部持って行かれたような感覚に襲われて、私は半ば衝動的に寝室を出てリビングの窓を開け放っていました。
静けさと温度に驚く
その瞬間、ようやく現実感が戻ってきました。車が走る音、光り輝くファミレスの看板……そこは間違いなく、夜の市街地のロードサイドでした。
こう書くと軽い恐怖体験みたいですが、住む家だと思ったら、話は変わってきます。世の中では概ね、「静かに暮らしたいなら不便な山奥へ行くべき」「便利に暮らしたいなら賑やかな都市部に行くべき」みたいな二者択一になりがちですけど、タナカホームのパッシブハウスは、ある意味、周辺環境のいろいろな条件をシャットアウトできてしまう……ということじゃないですか。
私はひとまず深呼吸して、窓を閉めました。だって外の空気が生暖かくてちょっと気持ち悪かったんですよ。いや、たぶん、普通に歩いてたら感じなかった気持ち悪さなんですけど、窓を開けたことで、室内の空気がめちゃくちゃちょうどいい感じだったんだと気付きました。
ふと室内を見渡すと、ゼンダーという熱交換換気システムのコンソールが見えました。そこには「25.1度」と表示があって、室内の空気の心地よさ(と、自分が混乱したこと)の理由がわかりました。そう、暑くも寒くもないんです。だから、夜なのか昼間なのか、春なのか冬なのかすらよくわからなくなってしまっていたんだと気付きました。
パッシブハウスの神髄を言葉にしてみる
こうなってくると、俄然興味が湧いてきます。私はモデルハウス内を(荒らさない程度に)くまなく探検しました。そこでもう一度驚いたのが、どこにいてもこの静けさとちょうどいい温度が保たれていること。なんだか時間が止まってしまっているような感覚がそこにありました。
気がつくと、「いや、すごいなパッシブハウス……」と、ひとりでつぶやいてました。その後、田中社長おすすめのホームサウナを満喫して、ぐっすりと眠り、朝を迎えました。あまりによく眠れたので、朝から仕事が捗りまくって、ご依頼いただいていた企画書がどんどん捗りました。そして日中やることがなくなりました……
空いた時間で「このすごさを言語化したい!」という職業病みたいな欲求が芽生えたので、いろいろ考えてい見たんですが、ざっくりまとめるとこんな感じになりました。
- 高気密窓の副次効果でとにかく静か!
- 「冬は暖かく、夏は涼しい」ではなく、24時間365日ずっと最適・快適な温度!
- 「静けさ」と「温度」がずーっと同じなので時間や空間の感覚がなくなる!
- 結果的に、日常の中にもう一段階上の日常空間が持てる感じ!
パッシブハウスの認定自体はかなりシビアなので、日照や通風など立地に左右される部分もあるそうですが、認定抜きにしても、このクオリティの家が現実的なお値段で建てられるって、めちゃめちゃすごいことだと思います。だって、どこに建てて、どこに住んでも(ただし、タナカホームの施工エリア限定)、毎日、山奥の別荘に帰ってぐっすり眠れる……みたいなものじゃないですか。
宮崎県民のみなさんがうらやましい
私は今回、関東(限りなく東京に近い埼玉)から宮崎におじゃましたわけですが、正直、関東にも進出してほしい。なんて思ってしまいました。でも、タナカホームはあくまでも宮崎県・鹿児島県でのパッシブハウス普及に集中していきたいのだそう。
その理由は2つあって、まず、ドイツのパッシブハウス認定の基準が極めてシビアで、南九州の気候データを熟知して、研究開発しているからこそ実現できているというのがあるみたいです。もうひとつは、タナカホームさんは宮崎や鹿児島のまちやひとが大好きで、ここから出て行こうとは思っていないとも言っていました。
でも、タナカホームの取り組みはかなり注目を集めていて、全国から住宅会社の人たちが続々と視察に来てるのだとか。もしかしたら近い将来、日本のあちこちで、タナカホームの工法を取り入れたパッシブハウスが生まれていったりするのかもしれませんね。